「世界を創った男 チンギス・ハン1-4」著作・堺屋太一(日本経済新聞出版社)を読んで

13世紀に東西3千キロ、南北1千キロの中央アジアに大モンゴル帝国を築いたチンギス・ハンの歴史(経済)小説。言語を持たない遊牧民族の子供が、信仰と身分と自給自足に縛られた中世の時代(氏族封建制度の中)、「人間に差別無し、地上に境界なし」のコンセプトを掲げ、「天尽き地果てるとも我が志は止まぬ」との志で、グローバル化に邁進した。歴史的には(日本の鎌倉幕府・誕生〜元寇来襲、欧州第4回十字軍)、いち早く遊牧民の部族封建制度から絶対王政制度へ、部族・階級制ではなく能力と貢献度による人間無差別の競争社会へ変革した。更に軍制度(親衛隊、駅伝、通信輸送、工業技術)と財政制度(通貨・不換紙幣、徴税、ファンド)と法律制度(戸籍、売買、信仰の自由)を整備した。「覇業」として、経済的な利益や自らの文化文明の普及や独自の信仰の布教の為に征服したのではなく、「人間に差別無く、地上に境界なし」の天地を広げるために天地の果てまで征服を企てた。そして「組織・法規・戦略と目標」を人々に与え続けた。
○「事業(覇業)」とは何かを分析した。①明確な理念(ビジョン)を持っている、②コンセプトを実施する形と気持ちを持続させる(成功するには理念と概念がとが良く合致し、人々を奮い立たせる様な精神的喜悦や技術的な満足を感じさせねばならない)、③それが成功に至る筋道(ストーリー)を想定する(着手し易い入口に飛び込まないこと、入り易い入口には出口は無い)、④象徴(シンボル)が必要(理念・概念・目的を正確に真剣に読む人は少ないので、具体的な施設・組織・行事・計画などを作成する)
○チンギス・ハンは体験と思考による創造を沢山している。「階級と国家運営、普遍的な好意の表現、物財や役務の交換など」具体的な制度に創り上げた。又、情報の収集に熱心であり、分析には冷静であった。倫理は主観的だが、知識は客観的であり、組織のトップに必要な資質を持っていた。現実には逆に、倫理面では世間の評判を気にして平均的(客観的)なり、知識(情報)においては気に入る良い報せばかり聞かされて主観的になる。(駄目リーダー)
○戦争の概念を確立させた。遠く離れた軍団を指揮すること、情報を迅速・的確に把握すること、同時多発的・広範囲な攻撃と城壁立て籠もりへの攻撃など、農耕民族戦争や商業民戦争と違った概念を導入した。特に「朕は災難なり」と大量殺害を広言し恐怖心を煽り、敵の降伏を促し叛乱を封じた。寝返り・叛乱防止の為、相手の財貨・人畜を掠奪するだけでなく、皆殺しを指示した。(近代では核戦争と匹敵する)
○人類らしい文明(12・13世紀中華文明の確立)とは①弓矢(戦闘力、組織行動)、②加熱加工(土器、調理、蓄蔵)、③牧畜(動物飼育、従わせる術、階層化)、④農耕(計画性、設計力、暦と数学)、⑤文字(記憶、英知、怨念を蓄積)

○「久遠の蒼穹の下、境界のない天下を創るべき」(ウエブの世界)
○「一事を興すは一事を省くに然ず、一利を得るは一害を除くに然ず」
その他、現代・未来に通じる概念が少し感じ取れました。

世界を創った男 チンギス・ハン 1

世界を創った男 チンギス・ハン 1